尾道市庁舎整備検討計画について


市長が定める「尾道市市民会館設置および管理条例案」に対する意見の申し出について。
これは、尾道市公会堂を廃止し尾道市公会堂別館を尾道市市民会館として設置し、管理する事への意見の申し出です。

これについて、私は賛成します。
公会堂機能としての価値は低く、機能を廃止したうえ、建物を生かす形で残せないか、という選択肢を希望しながらの賛成とさせてください。

しかし、建物を生かす形での提案は、教育委員会としての議論の枠を超えていると言わざるを得ません。
なぜなら、市庁舎が新築移転なのか、耐震改修なのかという議論の中で、安全安心のシステム、経済効率等、市民の為の、沢山の視点を踏まえての確認が必要と考えるからです。

その議論のスタートとなる「尾道市市庁舎整備検討委員会」では、公会堂の歴史的建築物としての意義についてほとんど議論がありません。このことに対して、教育委員として一言も触れず、公会堂廃止を黙認するわけにはいかないというのが私の気持ちです。

それでは、公会堂が文化振興課の所管の建築物として、歴史、文化の視点でとらえるべき価値のある建物かということですが、私は、近代建築遺産としての価値があると考えます。

久保小学校、土堂小学校にみる、戦前の「鉄筋建築物」、そして尾道市庁舎、公会堂にみる戦後の鉄筋コンクリートの近代建築。これは、京都大学の建築家で、 生誕100年を迎える「増田友也」氏の(ますだともや)設計です。氏は我が国の代表的な建築哲学者で、日本建築学会では近代建築史上、価値のあるものと指 摘して、「公会堂保存の要望書」をだされています。また尾道市民の寄付で成り立った建築物であるということも価値に含めます。

こうした近代建築の歴史の狭間には、解体されて駅前駐車場になってしまいました「県営上屋1号倉庫」があります。解体は残念でした。2号、3号倉庫には価 値を確認できませんが、1号倉庫は海運の産業遺構であり、手作りのリベットで止められた鉄のトラストで組んである鉄骨建築物でした。3棟の倉庫の中でも、 そのデティールは秀逸でした。

それぞれの時代のちゃんとした建築物は今お話ししたものに代表されます。浄土寺等の国宝の文化遺産のうえに、これら近代遺産が蓄積されてこそ、その蓄積を私たちが担ってこそ、尾道の歴史、文化の継承といえるのではないでしょうか。

もちろん、検討委員会の中には、共感できる、有難い意見もありました。経済同友会の村上委員は終止、まちづくりの視点でこの度の計画を検討しようと、意見 を突っ込んでいかれていましたが「その対案はあるのか」という反論では、質問の意義が消されてしまっているという感想です。
御調商工会の内海委員、広島建築士会の錦織委員が、何度か「尾道らしさ」という視点での議論をだされていましたが、受け止める方がおられないようでした。

教育委員としては、先程からお話をしている歴史、文化という視点をはずしては、責任を全う出来ないと考えての意見表明ですが、私の意見が市庁舎建設の絶対条件とは思っていません。

町を支えるのは、文化遺産だけではありません。先程も言いましたように、安全、安心のシステム、経済効率等市民のための沢山の視点が必要です。沢山の視点 をもって公会堂解体という案が出たときには、現在の建築技術を駆使して、建築遺産の一部(希望は大部分)保存等のアイデアを望みます。


最後に、

現在市立美術館で開催しています特別展「東日本大震災の記憶」を見てやってください。宮城県気仙沼市にあります「リアスアーク美術館」の展示物が、市外 に、県外にはじめて出品される美術館として、尾道市立美術館を選んでいただきました。そのオープニングレセプションに出席された学芸員と話をする機会があ りました。

エントランスホールで尾道水道を見て、学芸員が、「なつかしい景色ですね、震災前の気仙沼を思い出します」といわれたので、ものを知らないわたしは、「気 仙沼は前が太平洋で、そこから津波がきたのでは」といいましたら、「気仙沼は入り江で、島も同じように点在しています。ここと本当に良く似ています。もし 津波がきたら、尾道水道の左右から波が来て、このへんでぶつかりますね」といわれて、指差されたのが市庁舎付近でした。市民の安全安心があつてこその歴史 ですから、建築遺産はその次という視点、選択はあり得ると考えます。

だからこそ、免震、耐震という議論を十分にやってからという条件をつけたい。その選択は、政治の場でお願いします。お願いしながら、心配です。党利党略に 振り回される議会で、市民のための議論をしていただけるのでしょうか?それをあおり立てるメディアの情報のなにを信じたらいいのでしょうか?

私は学芸員に言いました「地震、津波を考えて、いま耐用年数が限界にきている市庁舎のリニューアルが議論されています。免震構造による新築が最有力です」 といいましたら。「海岸沿いに免震はないでしょう。気仙沼のように、浮遊物が入り込んだり、建物が傾いたら、免震の意味は無いですよ。」といわれました。 この意見が正しいとは断定できません。今のわたしには、賛成も反論もできません。

ですから、政治の場で、耐震、免震の専門家を招いて、市庁舎、および公会堂の耐震改修の可能性を今一度検討いただく場があれば幸いです。複数の対立する専門家の熱い議論を望みます。


平成26年8月27日

                                           尾道市教育委員会委員長 山北 篤














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